木造住宅の耐震性(後編)・「力感」という、構造をデザインする感覚
投稿日:2026年9月14日 | 読了時間:約8分 | カテゴリー:設計思想
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AIによる2人のホストの音声解説として制作しました。わたし本人の声ではありませんが、このコラムに込めた想いはそのままお届けします。通勤中や作業をしながら、どうぞ。
前回は、木造住宅の耐震性について、数字や制度の話を中心にお伝えしました。
▶︎ 前回の記事:木造住宅の耐震性 (前編)・木造住宅は本当に地震に弱いのか?
今回は少し視点を変えて、私が構造をどのように感じ、どのようにデザインに落とし込んでいるかという、もう少し個人的な話をしたいと思います。
大工が積み重ねてきたもの
昔の大工は揺れを体感し、自分で構造材を刻み、材料の強さを実感として持っていました。
経験と勘で、耐震性を高めようとしてきたのです。
ただ、大工には工学的な裏付けを持つ術がありませんでした。
明治以前は、何が原因で建物が壊れたのかを検証する手立てがありません。明治以降、西洋から建築構造の考え方が持ち込まれ、そこから現在の耐震工学が発展してきました。
大工は、親方や先代の仕事を尊敬し、受け継いでいく方たちです。
「こうすれば強くなる」という感覚はあっても、それがどの程度強くなるのかまでは、分かりませんでした。

近年は大学や構造家の研究によって、大工の経験知がどれくらい理にかなっていたのかを数値で検証できるようになってきています。
そうやって、自ら試行錯誤しながら腕を磨いてきた大工たちがいます。
一方で、そうした意識を持たず、ただ作業をしてきた大工もいます。
両者を、同じように語ることはできないと思っています。
「力感」という言葉との出会い
私は、師事していた田中敏溥建築設計事務所で、構造家の浜宇津正さんと15年ほど仕事をしました。
浜宇津さんは構造家らしく合理的に判断する人でしたが、単に部材を減らす、小さくすることを良しとはしない方でした。
木造であれば柱を1本建てることで、構造がかえって楽になる、梁背も小さくなる。
田中さんとの仕事では、無理をしないオーソドックスな設計を良しとしていました。
「私は臆病だから」
浜宇津さんは、よくそう言っていました。
無理を成立させることが構造家の実力ではなく、力の流れを感じる設計の方が良いと考えていたからだと思います。その感覚を、浜宇津さんは「力感(りきかん)」という言葉で説明してくれました。
力感とは何か
力感とは、誰もが備えている感覚です。
ただ、人によって、その感じ方には差があります。
「大丈夫?怖い?安全?細くない?太すぎない?」という、力に対する違和感。それが、力感です。
私が力感を強く感じるのは、力の流れを想像した時です。
屋根の荷重が、どの柱と梁を伝って、土台と基礎を通じて地球に還っていくのか。
あるいは、柱や梁を細くした時に感じる、華奢(きゃしゃ)な感覚。木造の大空間にいながら感じる、根拠がある不安感。そうしたものが、力感です。

ガウディはカテナリー曲線を用いて、サクラダファミリアをデザインしました。
重力に対して安定した形状です。
力感を持たない設計への違和感
自宅の近くの工事現場の前を、通りかかることがあります。
2階がオーバーハングしていたり、屋根の形が不整形だったり、柱や梁が細かったり。
私の感覚では設計しないような建物を、見かけることがあります。
構造的には、計算上成立しているのだと思います。
力感というものを、あまり気にせずに設計されているように感じることがある、というだけの話です。
もしかすると、私の方が過剰な設計をしているのかもしれません。それでも、力感を大切にしながら、構造的に素直に設計をすることは、地球に対して一番素直な設計をすることだと思っています。
無理をしなくても、自然と成立する設計です。
構造は、空間の骨格である
力感をどれだけ感じるかによって、構造とデザインの関係には差が出てきます。構造への認識が薄い建築家は、構造をデザインすることなく、自分の設計に構造を無理やり整合させようとします。

私にとって、構造デザインとは、空間をつくる骨格です。
人間で言えば背骨、船で言えば竜骨のようなものです。
骨格が美しければ、そこに肉付けをしても無駄のない、サラブレッドのような綺麗な姿になります。無駄がないというのは余裕がないことなのかもしれません。
そこに緊張感がある、合理的な計画ができると考えています。
実例:力感を形にする
北熊本の家では、240角(8寸角)という、現代の住宅にはやや太すぎるほどの大黒柱を建てることになりました。
これほどの柱に力感を感じさせるには、空間を大きくすること、この家の中心に建ち、家を支えている印象を与えることなどが必要だと感じました。存在感がありながら、自然と空間に馴染むように。
そこで、大きな吹き抜けのある空間に、1階と2階を連続させ、長さと太さがしっかり感じられる位置に、設計の最初からこの柱を据えることに決めました。
これは、構造的に必要だったからではありません。この柱の「顔を立てる」ように、他の柱よりも役割を与えるような位置に配置したのです。
力感とはまた少し違う、「顔を立てる」という考え方も、浜宇津さんから教わったものです。

篠ノ井アトリエでは、2階のある柱を、大きな力が加わる位置に配置しました。
窓との関係で見ると、少し不自然な位置に感じられるかもしれません。ただ、1階の間取りや、屋根の掛け方を踏まえると、とても自然な位置になっています。
見学に訪れた大工さんから、「この柱の位置、良いよね」と声をかけていただいたことがあります。
力感というものは、設計者だけでなく大工さんにも備わっているものなのだと実感し嬉しくなりました。


まとめ
力感を大切にしながら、構造家と一緒に空間を作っていく。それが、私の構造デザインのあり方です。
数字や基準だけでは測れない、感覚としての安全性があると私は考えています。
その感覚を独りよがりにしないために、構造家という専門家の理論と対話を続けながら歩んでいきたいと思っています。
関連リンク:
・木造住宅の耐震性 (前編)・木造住宅は本当に地震に弱いのか?
・記憶に残る家をつくりたい わたしが、家づくりで大切にしていること
・師・田中敏溥から受け継いだもの 「仲良くする」「単純にする」、そして構造家との出会い
木下治仁
一級建築士/合同会社HKA 代表
1975年鹿児島県生まれ。田中敏溥建築設計事務所に13年間勤務し、2016年に独立、2024年に合同会社HKAを設立。東京・代々木を拠点に、木造注文住宅・古民家再生・リフォームの設計監理を手がける。ウッドデザイン賞2度、木の建築賞 職人のチカラ賞受賞。



