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師・田中敏溥から受け継いだもの 「仲良くする」「単純にする」、そして構造家との出会い

投稿日:2026年9月7日 | 読了時間:約8分 | カテゴリー:設計思想


このコラムは、音声でも聴けます。
AIによる2人のホストの音声解説として制作しました。わたし本人の声ではありませんが、このコラムに込めた想いはそのままお届けします。通勤中や作業をしながら、どうぞ。


先日、チルチンびとの連載企画「田中敏溥の空間美とディテール」第2回の取材がありました。

師である田中敏溥さんの設計思想を、ディテールから深掘りしていこうという企画です。今回取り上げたのは、建築家にも一般の方にもファンが多い「玉川学園の家」です。

取材時間は3時間、いろいろな話に脱線しながらも、編集者の手腕で田中さんの設計の本質を掘り起こしていく、笑いに包まれた楽しい時間でした。

この連載の第1回は、寸法や開口部の話が中心になっています。ぜひ、チルチンびと2026年秋号を手にとって、購入して!読んでみてください。

129号「小さな水辺がある庭」

こちらで一部、立ち読みできます

ぜひ、感想をお待ちしています。第3回の取材の参考にします。


田中さんが話した中で、特に私自身に強く残っている3つの言葉について、私が何を受け継いできたのかを書いてみたいと思います。


「仲良くする」を「整える」と読み解く

田中さんは語っていました。

「仲良くする、設計は仲良くさせることである」

一軒の住宅は、それ単体で完結するものではありません。建物と建物の間の関係を、いい関係にする。そうすれば街ともいい関係になり、街と結びついていく。街との関わりを考えないで家をつくるのは、貧相なことだ、と。

田中さんの『仲良くする』という言葉は、実は『整える』ということなのではないかと、私は思っています。

私は学生時代から、街並みを壊したくない、整えたいという意識を持っていました。ただ、当時の私が考えていたのは、街全体を一度に整えるという、いわば開発的な発想でした。

田中さんの手法は、まったく逆で、一軒の家の設計から始めて、それが少しずつ広がり、いずれ街全体に浸透していく。時間がかかるし、実現するかどうかも分からない夢のような話です。

それでも、住宅の設計の中でできることがあります。隣家、隣地、道路との関係を整えることです。一軒の家という点が、隣との関係の中で、少しずつ線になっていく。

具体的には、生垣を植えることもその一つです。緑の点を線につなげていく。隣家の良い点を、上手に活かす。自分の設計をあえて控えたり、揃えたりすることで、隣家の良さをプラスに変えていきます。


「単純にしたい」という、削ぎ落とす美学

「線」についてどう考えているの?と聞かれた田中さんは、

「単純にしたい、複雑にしたくない」

と答えていました。そういえば、同じ言葉を、何度も繰り返していました。

この考え方は、私の設計にもそのまま当てはまります。

単純にすることは、現実に大工さんがつくる時の話にも直結します。複雑な設計は、つくる手順も複雑にしてしまいます。

複雑に考えた思考の過程は、ディテールや建物そのものにも現れます。見る人には、「ああ、こうしたかったんだな」と、設計者の作為が透けて見えてしまいます。私が目指すのは「そうだよね、こうなるよね」と、自然に受け止めてもらえることです。

単純にするには、余計なものを削ぎ落とし、シンプルに思考していく努力が必要です。案外、大変なんです。

よく、フランス料理と和食の違いに例えます。足していくことで表現する料理と、削ぎ落とすことで本質を出す料理。

私が目指しているのは、単純に考え、シンプルに整え、研ぎ澄まされた、凛とした印象を与える設計です。


構造家・浜宇津正さんとの10年

取材の中で、田中さんは構造のことに対して、

構造家の浜宇津正さんと仕事をするようになってから、構造の考え方がより理論的になった

と、話していました。

田中さんと浜宇津さんは30年以上一緒に仕事をされていました。

私自身も、田中さんと浜宇津さんと一緒に、10年ほど仕事をしました。

浜宇津さんは、構造家らしく合理的に判断する人ですが、単に部材を減らす、小さくすることを良しとはしません。

木造であれば柱を建てることで、構造がかえって楽になる、梁背も小さくなる。そうした、無理をしないオーソドックスな設計をする方でした。

浜宇津さんは、「私は臆病だから」とよく言っていました。

無理を成立させることが構造家としての実力ではなく、力の流れを感じる設計の方が良いと考えていたからだと思います。浜宇津さんは「力感(りきかん)」とか、「部材の顔を立てる」という言葉で説明してくれました。

田中さんが「理論的になった」と話していたのは、構造の考えや力の流れを、感覚だけでなく言葉にできるようになった、ということなのだと思います。

独学の勘だけに頼るのではなく、工学的な理論を重ね合わせることで、培われていった結果だと思います。


おわりに

田中さんの言葉のなかで、今回紹介しきれなかった言葉については、また改めて紹介したいと思います。

第2回「田中敏溥の空間美とディテール」が発売されるまでお待ちください。


関連リンク:
・田中敏溥の設計思想・田中語録その1
・記憶に残る家をつくりたい わたしが、家づくりで大切にしていること

木下治仁

一級建築士/合同会社HKA 代表

1975年鹿児島県生まれ。田中敏溥建築設計事務所に13年間勤務し、2016年に独立、2024年に合同会社HKAを設立。東京・代々木を拠点に、木造注文住宅・古民家再生・リフォームの設計監理を手がける。ウッドデザイン賞2度、木の建築賞 職人のチカラ賞受賞。

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