暮らしの動線は「ついで」でつくる
投稿日:2026年10月12日 | 読了時間:約8分 | カテゴリー:家づくりの基礎知識
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AIによる2人のホストの音声解説として制作しました。わたし本人の声ではありませんが、このコラムに込めた想いはそのままお届けします。通勤中や作業をしながら、どうぞ。
「動線の良い家にしたいです」
打ち合わせで、よく言われるご要望です。そのたびに「私も大事だと考えているので、おまかせください」とお答えしています。
動線が良いと聞くと、移動が短くて作業の順番どおりに一直線に並んだ間取りを思い浮かべるかもしれません。たしかにそれで家事は効率よくなりますが、私が動線を考えるときに大事にしているのは少し別のことです。
私が普段、動線をどう考えているかを書いてみます。
作業の動線と、暮らしの動線は別もの
キッチンなら、洗う、切る、炒める。洗濯なら、洗う、干す、畳む、しまう。この順番どおりに場所を一直線に並べると、移動が短くなり作業ははかどります。
ただ、それはあくまで作業のための動線で、暮らしの動線とは少し違うと考えています。
暮らしの動線で大事なのは、ストレスがないことです。一直線になっていなくても、何かのついでで用事が済んだり、多少不便でも、そのかわりに別の良いことがあったりするなら、私はそちらを大事にしたいと思います。気がついたら家事が終わっているようにしたいです。
毎日通る場所に、用事を置く
動線を考えるときに気をつけているのは、一つの動線を一つの用事だけのものにしないことです。
庭や勝手口へ行くためだけの通路や、洗濯のためだけの動線をつくるより、洗面へ行くついでに洗濯もできる、というように、いくつかの用事を一つの動きの中で済ませられるように設計しています。
稲村ヶ崎の家の洗濯室
暮らしの動線のストレスというと、私はまず洗濯を思い浮かべます。
稲村ヶ崎の家では、廊下の一角に洗濯室を設けました。脱衣室の近くで、階段室の一部でもあり、勝手口もあります。
2階への上り下りの途中で洗濯をしたり、帰宅して2階の寝室で着替える前に汚れ物を出しておいたりできます。洗濯して、干して、畳んで、そのまま2階のクロゼットへ運ぶこともできます。
洗濯室への動線をわざわざつくったのではなく、毎日通る場所に洗濯の場所を置いただけです。それだけで、洗濯はずいぶん楽になったようです。
住まい手のNさんからは、こんな声をいただきました。
「洗濯してから干すまでの動線がスムーズで、家事のしやすさをしみじみと感じています」


「稲村ヶ崎の家」階段下に洗濯機スペースを設置。振り返ると物干しスペース
廊下の代わりに、家具が動線をつくる
動線というと、廊下のような通路を考える方が多いと思いますが、リビングやダイニングには、そもそも廊下がありません。そこで廊下の役割を果たすのが家具です。家具の置き場所を先に決めて、その周りを歩くように考えると、動線ができてきます。
ダイニングはテーブルで決まる
ダイニングでは、テーブルで動線をコントロールしています。壁につけるのか、部屋の真ん中に置くのか。丸にするのか、正方形にするのか。大きさも含めて、動線に合わせてテーブルを決めていきます。
リビングは、動かせるものと動かせないものを分ける
リビングでは、ソファやテレビ台を作り付けにすることがあります。動かせるものと動かせないものを先に分けておき、ソファやリビングチェア、テレビの置き場所を決めていくと、そこが団欒の中心になります。

「猿島の家」ソファとテレビ台を作り付けにして、たまりをつくりました
主動線と家事動線、そして「たまり」
動線には、主従や裏表があります。家族が行き交う主動線と、家事のための家事動線があり、この二つを分けて考えるようにしています。
二つが交わらずに整理されていると、リビングに落ち着いて過ごせる居場所ができます。私はそこを「たまり」と呼んでいます。お茶を出すときの動き(サービス動線)も、このたまりを横切らずに通れるようにしています。
家具だけでなく、照明や部屋同士の関係、窓やドアの位置も、あわせて調整しながら設計しています。構造上必要な柱の位置を考えて、動線をつくることもあります。

「高屋の家」ソファの後ろが廊下の役割をしています
少し遠回りしても、良いことがある
出水麓の家は、古民家を改修した住まいです。ここでは、パントリー(食品庫)を、キッチンから一度縁側に出た先に置きました。
小さなキッチン(4.5畳)に、収納をできるだけ多くつくってほしいというご要望でした。収納を増やすには、壁を多くつくる必要があります。パントリーをキッチンの中に設けると、出入口や通路の分だけ、壁が削られていきます。一度縁側に出る配置にしたことで、キッチン側の出入口がなくなり、壁が増えました。その分、収納が増えて、無駄のないキッチンになっています。
パントリーにしまうものには、ダイニングで使う調理機器や、たまにしか使わないものなど、キッチンだけで使うわけではないものもあります。縁側を通るので、移動の途中で庭を眺めることもできます。大きな荷物も運びやすいし、しまいやすい。縁側を通る手間はかかりますが、それを上回る良さがありました。住まい手のTさんは「キッチンから一度出ることも、そんなにストレスではない」と話されていました。


「出水麓の家」冷蔵庫の裏がパントリー。無駄のない作り付け収納にしました
師の田中さんに教わった、暮らしのストレスをなくす動線計画
田中さんからは、大事な動線計画として、次の3つを教わりました。
玄関ホールからリビングを横切らずにキッチンに行けること
玄関ホールからリビングを横切らずに寝室に行けること
寝室から玄関ホールを横切らずにトイレ浴室にいけること
リビングでお客様(親戚や友達)を迎えている時に、荷物を抱えて帰宅したまま慌ただしく対応するのではなく、一旦落ち着いてからご挨拶したい時があります。また、玄関で近所の方と長話をしている時、水回りからの出入りを気にする時もあります。
ささいなことですが、ちょっとした配慮が暮らしのストレスを軽減してくれます。
まとめ
動線は、短くまっすぐなら良い、というものではないと考えています。作業の効率も大切ですが、暮らしの中では、毎日通る場所にどんな「ついで」をつくれるか、多少の不便と引き換えに何が得られるかの方が、住み心地を左右するように思います。
気がついたら、ついでに用事が済んでいる。動線は、そのくらいがちょうどいいと思っています。
間取りの動線は、図面だけではなかなか伝わりにくいものです。ご自身の暮らしに当てはめて考えてみたいと思ったら、無料相談会で一緒に図面を見ながらお話ししましょう。
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木下治仁
一級建築士/合同会社HKA 代表
1975年鹿児島県生まれ。田中敏溥建築設計事務所に13年間勤務し、2016年に独立、2024年に合同会社HKAを設立。東京・代々木を拠点に、木造注文住宅・古民家再生・リフォームの設計監理を手がける。ウッドデザイン賞2度、木の建築賞 職人のチカラ賞受賞。



