窓を開けて、季節と暮らす
投稿日:2026年10月19日 | 読了時間:約5分 | カテゴリー:設計思想
今年の夏、東京では窓を開けて寝起きできる夜が続きました。
窓を開けて虫の声を聞きながら床に着きました。朝も目が覚めると虫の声が聞こえ、しばらくすると鳥の鳴き声が聞こえはじめます。家を出るころには、蝉が鳴いていました。
窓から入ってくる風が心地よくて、朝方は寒いくらいでした。子供の頃に感じていた心地よさを思い出し、どこか貴重なことのように感じました。
短くなった春と秋
地球温暖化が進んで、以前から言われていた「春と秋が短くなる」ということがはっきりしてきました。5月の半ばから暑くなり始め、そのあとも暑い日が続き、10月になってもなかなか涼しくならない。そんな感じです。
三重大学の研究によると、日本の夏は1982年から2023年までの42年間で、およそ3週間長くなったそうです。冬の長さはほとんど変わらず、そのぶん春と秋が短くなっています。「四季」ではなく、「二季」という言葉をよく聞くようになりました。
窓を閉めて暮らすのが当たり前に
温暖化対策の一つとして、住宅業界では断熱性能を上げることが目標になってきました。窓を開けずに換気を最小限にして外の環境を遮断し、空調機器で室内を快適に整えるのが良いとされています。
おかげで冬は少ないエネルギーで快適に暮らせるようになりました。これはありがたいことです。
一方、夏はエアコンを24時間使う暮らしが前提になりました。断熱性が高い家は中間期や夏の夜に熱が外へ逃げにくく、室温が下がらない(熱が籠る)とも言われています。
エアコンで暮らすことに慣れてしまうと、気候の良い時期を楽しむことを忘れてしまったように思います。今までは春と秋の気候の良い時期が暮らしの中にしっかりと根付いていました。
気づかなくなったもの
最近は、温暖化や農薬などの影響で虫が減ったと言われています。ドイツの自然保護区で空を飛ぶ虫が27年で75%以上も減ったという研究があります。
窓を閉めて暮らしていると、そのことにも気が付かなくなります。そう言えば蝿が飛んでいるのもあまり見かけなくなったように思います。蝿叩き、蝿とり棒、はい帳、蝿取り瓶といった、日用品も見かけなくなりました。
涼しさを楽しんできた暮らし
秋の夜長という言葉があるように、日本には涼しさを楽しむ文化がありました。お月見が代表です。秋の虫の声を聞いて楽しむ「虫聞き」は、平安時代に始まったと言われています。江戸時代には、虫を籠に入れて売り歩く「虫売り」もいたそうです。今では、京都の旅館が虫聞きを特別な催しとして用意するほど、珍しいものになりました。
夏は庭木がつくる木陰に入ると涼しく感じたものです。これからの季節はもみじの紅葉が綺麗になります。季節によって花が咲いたり、葉の色が変わったり、実がなったり。季節を感じる木を植えることも大事だと思います。
開く窓のある住まい
ホテルの窓はきれいな景色を取り込んでいても開かないことが多いです。私は閉じ込められているような気分になります。
住宅では窓を開けることが少なくなりました。それでも大きく開く窓をつくって、心も体も解放されるような気持ちで暮らしたいです。
窓を大きく開けるとプライバシーが気になります。木を植えたり、すだれをかけたりして、目隠しをすることができます。カーテンを閉めて空調で快適に暮らすよりも、よほど快適だと思います。
外に出る工夫もしたいですね。ベランダやウッドデッキ、土間をつくって、ちょっと外に出られるようにしたり、芝生を植えるなど外で楽しめる仕掛けを考えたり。
室内からの眺めも大事です。庭木を植えたり、まわりの緑を借景にしたり。
プライバシーと室内の環境を整えて、眺めをよくして、屋外との接点をつくって、外を上手に取り入れた暮らしを実現していきたいです。
まとめ
これからは、春と秋の暮らしを大事に丁寧に楽しむことが、貴重で、贅沢なことになっていくと思います。
窓を開けて風を通して、虫の声を聞く。日本人が大事にしてきた暮らしを、もう一度見直した家づくりをしていきたいですね。家の中に閉じこもらずに。
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木下治仁
一級建築士/合同会社HKA 代表
1975年鹿児島県生まれ。田中敏溥建築設計事務所に13年間勤務し、2016年に独立、2024年に合同会社HKAを設立。東京・代々木を拠点に、木造注文住宅・古民家再生・リフォームの設計監理を手がける。ウッドデザイン賞2度、木の建築賞 職人のチカラ賞受賞。



