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「謎の坪単価」はなぜ横行するのか

投稿日:2026年10月5日 | 読了時間:約9分 | カテゴリー:家づくりの基礎知識


このコラムは、音声でも聴けます。
AIによる2人のホストの音声解説として制作しました。わたし本人の声ではありませんが、このコラムに込めた想いはそのままお届けします。通勤中や作業をしながら、どうぞ。


「坪単価っていくらですか?」

必ずと言っていいほど聞かれる質問です。正確に答えたいのですが、少し困ってしまいます。というのも坪単価という指標は、建築業界の中でもずっと「謎」のまま残り続けている数字だと思います。

プロである私自身、この価格設定を正確に説明できません。建築家仲間とも「謎だよね」と良く話題になります。

今回はその「謎」の正体と、それでも私なりにどう向き合っているかをお話ししたいと思います。

なぜ坪単価は「謎」のままなのか

一般的に坪単価は、「本体価格 ÷ 面積」で計算されます。考え方はシンプルですが、この"本体価格"と"面積"の中身に、業界共通のルールがありません。

面積の基準が2つある

面積には、延床面積(各階の床面積の合計)と、施工床面積(バルコニーや玄関ポーチ、吹き抜けなども含む、より広い面積)の2種類があります。同じ本体価格でも、施工床面積(広い方)で割れば、坪単価は安く見えます。

延床面積は確認申請に使用する面積です。屋外を除いた面積(屋内だけ)とイメージすると分かりやすいです。

本体価格の範囲も会社によって違う

一般的に総工事費は、本体工事費+付帯工事費+諸経費+消費税で構成されています。

本体工事に何を含むかも会社によって違います。照明器具やカーテンを含む会社もあれば、含まない会社もあります。付帯工事(外構、地盤改良、給排水の引き込みなど)は基本的に坪単価には含まれていません。

一方でお客様がイメージする坪単価はもっとシンプルです。

総工事費(最終的な請負契約額)を延床面積で割ったもの。このお客様のイメージと業界の算出方法の間には、そもそも大きなズレがあります。


私も同じ矛盾を抱えている

私は条件による付帯工事費(地盤改良、外構、植栽、ストーブや床暖房などの設備、敷地高低差、準防火地域など)を、できるだけお伝えするようにしています。少しでも総工事費を正確にお伝えしたいからです。

それでも、結果的には坪あたり10〜20万円ほど当初の想定より増えてしまうことがあります。

「自分は他社より正確に答えている」というだけでは、実はこの業界が抱えている構造的な矛盾から私も逃れられていません。それが正直なところです。


今、坪単価が上がっている理由

ここ10年で建築資材のコストは約4割上昇しました。主な原因は、木材や鉄などの材料費の高騰と、職人の働き方改革をはじめとした労働環境の改善による諸経費の増加です。

これは、特定の会社の値上げではなく、業界全体で起きている構造的な変化です。「以前と同じ予算感で家が建つ」という前提そのものが、この10年で変わってしまったということでもあります。


私たちHKAの坪単価

自然素材を使った木造住宅の場合、一般的な水準は坪130万〜150万円程度です。

私の場合は、加えて玄関ドアを木製で製作する、建具を造作する、浴室をユニットバスではなくつくる、といった私たちならではの仕様によって、一般的な工務店の水準と比べて坪20万円ほどの差が出ます。さらに外構などの条件差で工事費が加算されます。

予算という点では困ったことに、そこに私たちの設計料が上乗せされます。

「いったいいくらかかるんだ」と驚かれることもあります。

一方で、こんなことも言われます。「求めるものを諦めてまで、無理に安くしたいわけではない」。工事費の内容に納得した上で、自分たちが求めるものを実現したいということだと思います。


コストのバランスをどう取るか

坪単価そのものは謎めいていても、コストのかけ方には、私なりの考え方があります。

コストをかける場所とかけない場所

コストをかける場所と、かけない場所を分けることです。リビングやダイニングなど家族が長く過ごす場所の仕上げや家具にはコストをかけます。子ども部屋などは仕上げのグレードを変えるたり、造作家具を作らないことが多いです。

既製品の活用と総二階という選択

既製品をできるだけ活用し特注品を絞ることも一つです。1階と2階の面積を揃えて総二階にすることは構造的な安定だけでなく、コストの面でもメリットがあります。

職種を増やさない、でも職人の手間は削らない

関わる職種の数を増やさないことも意識しています。仕上げの種類を絞る(壁と天井を同じ仕上げにするなど)、一つの職種でできるだけ仕上げる、といった工夫です。

その中で一つだけ譲れないことがあります。職人さんの手間を削ってコストカットすることは良くないと考えています。 職人さんの腕はそのまま仕上げに反映されます。職人さんのやる気をそいでまで、作業時間を削ってまで、コストを削りたいとは思いません。

メンテナンスコストとの兼ね合い

もう一つ、メンテナンスとの兼ね合いも考えます。左官仕上げのような無機系の素材は、初期費用はかかりますがその後の塗装などのメンテナンス費用が減ります。のちのちかかるメンテナンス費用を、新築時のコストに充てるという考え方もあります。これは、単純なコスト削減とは少し違う話です。

何より、コストを下げるという工夫はテクニックだけでは意味がありません。「この家で何を達成したいか」という目標を、施主と建築家と工務店が、同じ方向で共有できていることが、その前提になると思っています。


まとめ

坪単価には、「正解」がありません。会社によって算出方法も違えば、含まれる内容も違います。私自身、条件を開示しているつもりでも、結局は同じ矛盾を抱えています。

それでも何にコストをかけ、何を削るか。その判断を施主・建築家・工務店で共有しながら進めていくこと。それこそが坪単価という数字より、ずっと大切なことだと思っています。


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木下治仁

一級建築士/合同会社HKA 代表

1975年鹿児島県生まれ。田中敏溥建築設計事務所に13年間勤務し、2016年に独立、2024年に合同会社HKAを設立。東京・代々木を拠点に、木造注文住宅・古民家再生・リフォームの設計監理を手がける。ウッドデザイン賞2度、木の建築賞 職人のチカラ賞受賞。

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