作図する前に考える──スケッチを描く意味
カテゴリー:設計プロセス、スケッチ、素材
建築の図面には、大きく分けて2種類あります。作る図面と、見せる図面(プレゼン用)です。
作る図面は、一般的に平面図、断面図、立面図。これらを描く前に、私はまずスケッチで考えることがあります。
今回は、検討中の洗面台のスケッチを通じて、その思考プロセスを紹介したいと思います。
スケッチで考えていること
洗面台の平面図で、大きさや構成についてはぼんやりと決まっています。しかしそれだけでは、まだ何も「決まって」いません。
スケッチで考えているのは、素材、使い勝手、納まり、作り方。今回の洗面台では、こんな構成を検討しています。
カウンター:人造大理石
壁:左官仕上げ(水がかかる部分だけタイル)
扉や箱:杉
鏡、照明の位置
素材だけでも4種類。それぞれが、どこでどう切り替わるのか。この「異素材の取り合い」こそが、今回一番時間をかけて考えているところです。
平面図では見えないもの
平面図や立面図では、前後関係や異素材のぶつかり方が分かりにくいものです。
例えば、人造大理石のカウンターと杉の扉が接する部分。左官壁とタイルが切り替わる境界線。これらは、平面上の線だけでは、どう美しく納まるのか判断できません。
スケッチにすることで、こうした問題点が浮き彫りになります。木であれば目の向きも重要です。使い勝手と作り方、両方を同時に検討しながら、線を描いていきます。
スケッチで収まっていないと、図面で収まることはありません。
これが、私がスケッチを大切にする理由です。
クライアントに見せる前に
面白いのは、このスケッチをクライアントに見せることはない、という点です。
図面化していったんまとめてから、再度スケッチを描いて、その時にクライアントに確認してもらいます。つまり、2段階のスケッチがあるということです。
なぜ最初のスケッチは見せないのか。それは、提案する前に自分の考えをまとめておきたいからです。
クライアントへの説明は、デザインの説明ではなく、使い方や素材の説明が主になるようにしたい。デザインの組み立てなどは、あえて説明しなくても伝わるように。
クライアントの希望に応えるには、まず自分の中で一度、完成したものを作っておくべきだと考えています。
まとめ
図面を描く前のスケッチは、単なる下描きではありません。
異素材がどう出会い、どう納まるのか。使う人がどう動くのか。職人がどう作るのか。そうした複雑な要素を、一枚のスケッチの中で同時に検討していく作業です。
このスケッチでうまくいけば、実際に図面を描き始めても、制作に入っても、大きな問題はないはずです。
見えない部分でこそ、設計の質が決まる。そんなことを、洗面台のスケッチを通じて改めて感じています。
木下治仁
一級建築士/合同会社HKA 代表
1975年鹿児島県生まれ。田中敏溥建築設計事務所に13年間勤務し、2016年に独立、2024年に合同会社HKAを設立。東京・代々木を拠点に、木造注文住宅・古民家再生・リフォームの設計監理を手がける。ウッドデザイン賞2度、木の建築賞 職人のチカラ賞受賞。



