Q:玄関ドアは何を選ぶ? A:木製ドアの製作がおすすめです
投稿日:2025年5月19日|読了時間:約6分|カテゴリー:素材・造作・玄関ドア
更新:2026年8月31日
このコラムは、音声でも聴けます。
AIによる2人のホストの音声解説として制作しました。わたし本人の声ではありませんが、このコラムに込めた想いはそのままお届けします。通勤中や作業をしながら、どうぞ。

「福富の家」クリの木で作った木製の玄関ドア、地元の建具屋さんが製作
木製ドアをお勧めする理由
玄関は家の「顔」とも言われる大切な場所です。家相では運気を左右するとも言われ、昔から職人さんが他の部屋よりも丁寧に仕事をしてきました。
玄関は家の中と外とをつなぐ場所でもあり、お客様を迎える場所でもあります。いつもきちんと整えておきたいです。
そんな玄関の印象を決めるのがドア、とくに木製ドアは自然素材ならではの優しや暖かさがあります。家の出入りで必ず使用するので、きっと記憶に残る「我が家のイメージ」になるはずです。
例えば、4人家族が毎日、最低1日一回出入りするとしても、
4人×2回/日×365日=2920回、年間3000回以上もドアの開け閉めをするのです。

「福富の家」落ち着いた雰囲気の玄関
玄関は下足箱だけでなく、上がり框、式台、巾木、沓脱石、つかまり棒…と造作の要素が集まっています。
空間に合わせたドアが欲しい
経年変化を楽しめるドアが欲しい
「我が家」のオリジナルのドアが欲しい
そんな時こそ、木製ドアの出番です。愛着がわくに違いありません。
木製ドアの樹種選び ― なぜナラなのか
樹種にはクリや杉、ナラ、ピーラーなど色々な選択肢がありますが、私が多くご提案するのはナラです。理由はいくつかあって、まず入手しやすい材料であること。そして堅い木なので傷がつきにくいので、玄関という毎日使う場所に向いています。アルミ製にない木という素材本物のの魅力があります。なにより、ドアらしいどっしりとした堅牢な雰囲気が出ます。外壁が杉板でも左官壁でも、ナラであれば建物との相性で困ることはまずありません。
私はドア枠は大工さんに、ドア本体は地元の建具屋さんにお願いすることが多いです。どちらも木を使うことにかけてはスペシャリストです。
詳細図を書いて、レバーハンドルや鍵、丁番、クローザーなどの金物を選んで、使用する材料を確認しながら、丁寧に打ち合わせを重ねていきます。

平面詳細図の一例
木製ドアは経年変化しながら家族の思い出を刻み、玄関だけでなく家全体を美しく整えてくれます。私が木製ドアをお勧めする理由です。

「高屋の家」外壁の杉板に合わせた、杉で作った木製ドア
私がおすすめするレバーハンドル
堀商店という建具金物メーカーのレバーハンドルをお勧めしています。材質は真鍮(黄銅:銅と亜鉛の合金)で鋳物の手作りのものです。プレス加工では作れない複雑な形状も、鋳物なら形にできます。堀商店のレバーハンドルは職人の手仕事で作られていて、形も数十年前と変わりません。多くの既製品にありがちな細さやシャープさとは違い、握ったときにどこか安心感のある太さのものを選ぶようにしています。他のメーカーにも良いものはたくさんありますが、この変わらないデザインと後述する防犯性の高さから、私は堀商店のものを選んでいます。
デザインと仕上げと錠の性能
レバーハンドルはたくさんのデザインがある中でもお勧めがあります!
デザイン:LAR
握りやすさも大事ですが、鋳物らしいデザイン、優しさを感じるデザインです。
仕上:ステンレスヘアーライン(SH)
他の部材もシルバー系の金物を選ぶことが多いので統一しています。たまにゴールド系でまとめることもあります。
シリンダー:トライデントシリンダー
棒状の鍵にディンプルが彫ってある珍しい形です。堀商店の鍵を使っている方にはお馴染みのデザインです。
「あ、あなたの家も堀商店…」建築家が設計した家のあるあるです。
一般的なギザギザの鍵と違い、トライデントシリンダーは丸い鍵穴の中に3列のピンが並ぶ構造になっていて、鍵の刻みとピンの凹凸が一致してはじめて解錠できる仕組みです。ピンの列が増えたことで鍵違いの組み合わせが非常に多くなり、鍵穴自体も丸いため、特殊な工具を使った不正解錠がしにくいと言われています。この鍵穴の形は「あ、堀商店だ」と一目でわかるくらい、いわばアイコンのような存在です。
何より防犯性が高いことが、私が堀商店の鍵をお勧めする一番の理由です。

レバーハンドル/堀商店:LAR(SH)
手仕事で作られるレバーハンドル
製作工程は堀商店のWEBサイトをご覧ください。職人さんが手仕事で作る様子が工程ごとにまとめられています。
身の回りから手仕事で作られるものが減ってきています。毎日、素手で触れるものなので、丁寧に作られたものを使いたいですね。
伝えたいこと
先日、鍵を交換することに…
私が勤めていた田中敏溥建築設計事務所の設計で、約30年前に建てた住宅があります。
先日、鍵の調子が悪いということで工務店さんに見てもらいましたが、触り慣れたレバーハンドルはそのままで、シリンダーだけを交換することができました!良かったです。
工業製品は廃番になったり、修理部品も無くなったりで、場合によっては全交換になることも…メンテナンスの面でも安心して使うことができます。
木製ドアのデメリットーー手がかかる理由
最後に、木製ドアのデメリットもきちんと伝えておきます。良いことばかりではありませんので。
一般的な既製品のドアと比較すると、断熱性(正確に評価できない)や気密性が劣るだけでなく、ドアが反ったり、鍵がかかりにくくなったりと手がかかります。
手のかかる原因は、色々ありますが、
玄関が北側だったり西側だったりと環境が異なる
家の中が暖かくても屋外が寒かったり、扉の面裏で環境が異なる
季節によって湿度が違う
職人さんによって作り方が違う
建具屋さんがどんなに頑張っても、問題をゼロに出来るとは言い切れません。木製ドアは無垢板を使い、毎回が特注品になります。工場で同じ形を作り続けながら不具合を少しずつ直していく既製品とは違い、建具屋さんでは工場のような精密で複雑な加工ができないのです。
もちろん、できる限り性能を高める努力をしています。加えて、最近の住宅は断熱性能が上がって室内が暖かくなった分、冬は屋内外の温度差が以前より大きくなりました。この温度差によって、木が反りやすくなります。堀商店の鍵は精度が高いぶん、少しの反りなら大丈夫ですが、大きな反りになると鍵がかかりにくくなることがあります。
手がかかるのは最初のうちだけとはいえ、こうしたことが起こり得ると、あらかじめ正直にお伝えしておきたいと思っています。

「稲村ガ崎の家」ナラの木で作った木製ドア
木製ドアの良いところを気に入ってもらって、不具合を可愛がってもらえれば、10年、20年、30年と時を経るごとに味わいが出てきます。
ドアの音と家族の気配
音のことも書いておきたいと思います。玄関が閉まる音がするということは、誰かが帰ってきたということ。家を出るときに音が聞こえるのは、誰かが家を離れたということです。
音がしないことばかりが良いわけではなく、音がすることにも良さがあると私は思います。昔は木製の建具ばかりで、戸を開け閉めするたびに音がしていました。姿が見えなくても、音でお互いの気配を感じていたのだと思います。
住宅が高性能になり、静かで機能的になるにつれて、そうした音は少しずつ聞こえなくなってきました。木製ドアが閉まる時の音は、家族の気配を伝えてくれる音として、あえて残っているのかもしれません。
普段は気にしなくても、旅先から帰って来た時、出張先から帰って来た時、「ようやく我が家に帰りついた」と、木製ドアを見てほっとしてもらえると思います。
木下治仁
一級建築士/合同会社HKA 代表
1975年鹿児島県生まれ。田中敏溥建築設計事務所に13年間勤務し、2016年に独立、2024年に合同会社HKAを設立。東京・代々木を拠点に、木造注文住宅・古民家再生・リフォームの設計監理を手がける。ウッドデザイン賞2度、木の建築賞 職人のチカラ賞受賞。



